M&A及びグループ再編が財務諸表に及ぼす影響の具体例

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上場準備の過程で想定される主な組織再編として、株式取得(株式譲受、株式交換)、吸収合併及び会社分割について、会計処理上の注意点を見てみましょう。

(a) 株式譲受による100%子会社化
グループ外部の第三者から株式を取得し、当該会社を子会社化した場合、個別財務諸表上は、「金融商品に関する会計基準」に従って会計処理を行う。具体的には、当初取得時は、子会社株式を時価により測定し、支払手数料等、取得時に発生する付随費用は当該子会社株式の取得原価に含めることになる。但し、付随費用を含む取得関連費用について、連結財務諸表上は発生した年度の費用として処理する必要がある。
なお、当初から株式を保有しており、追加取得することによって子会社となる場合、連結財務諸表上、当該子会社に対する投資の金額は、追加取得前の投資を含めて全て支払獲得日における時価で算定する。支配を獲得するに至った個々の取引ごとの減価の合計額との差額は、連結損益計算書において「段階取得に係る差損益」として特別損益に一括して計上する必要があることに留意が必要である。

(b) 株式交換による100%子会社化
以下、株式交換の対価が株式交換完全親会社の株式であるケースを前提とする。
1) 株式交換が「取得」に該当する場合
株式交換完全親会社の個別財務諸表上、株式交換完全子会社の取得原価は、取得の対価に付随費用を加算して算定する。
連結財務諸表上は、株式の取得原価と子会社となる会社の資本との差額がのれん又は負の暖簾として計上される。但し、個別財務諸表において、子会社株式の取得原価に含めた付随費用は、連結財務諸表上発生した年度の費用として処理する。のれんについては一定期間にわたって償却され、負の暖簾については発生した事業年度の利益として計上される。なお、株式交換完全子会社の株式を株式交換実施前に株式交換完全親会社が保有していた場合、連結財務諸表作成上の子会社株式の取得原価の考え方については株式譲受のケースと同様であり、この結果、連結損益計算書において「段階取得に係る差損益」が計上されることになる。

2)株式交換が「共通支配下の取引に該当する場合」
企業グループ内で株式交換が行われる場合、親会社が取得する子会社株式の取得原価は以下のように算定する。
・グループ内の他の子会社から取得する株式
株式交換完全子会社の適正な帳簿価額による株主資本の額のうち、他の子会社の持分相当額を取得原価とする。

・被支配株主から取得する株式
取得の対価(被支配株主に交付した株式交換完全親会社株式の時価)に付随費用を加算した額を取得原価とする。
連結財務諸表上は、追加取得した子会社株式の取得原価と追加取得により増加する親会社持分又は減少する被支配株主持分の金額との差額を資本剰余金に計上する。なお、個別財務諸表において子会社株式の取得原価に含めた付随費用は、連結財務諸表上、発生した年度の費用として処理する。

(c) 吸収合併
1) 吸収合併が「取得」に該当する場合
合併により受け入れる資産・負債は時価で測定し、取得原価との差額はのれん又は負の暖簾として処理する。
2) 吸収合併が「共通支配下の取引」に該当する場合
例えば、親会社が子会社を吸収合併する場合、合併により受け打容れる資産・負債は子会社の連結財務諸表上の帳簿価額とし、子会社の純資産の占める親会社持分相当額と消滅する子会社株式の帳簿価額との差額は抱き合わせ株式消滅差損益(特別損益)として損益計算書に計上する。
なお、「連結財務諸表上の帳簿価額」とは、個別財務諸表上の「適正な帳簿価額」に、措本連結に当たり実施した子会社の資産及び負債の時価評価(時価評価に伴う税効果の調整を含む)、暖簾の未償却残高および未実現損益に関する修正事項を調整したものである。
また、吸収合併後、親会社が連結財務諸表を作成する場合、上記「抱き合わせ株式消滅差損益」は、連結財務諸表上、過年度に認識した損益となるため、連結財務諸表においては消去される。

(d) 会社分割
グループ内再編として100%子会社の新設による会社分割を前提とすると、親会社が取得する子会社株式の帳簿価額は、移転する資産・負債の適正な帳簿価額となる。

(e) 100%子会社化後の吸収合併
M&Aの形態として、グループ外の他の会社を100%子会社としてグループに取り込むケースと合併により自社に取り込むケースがあるが、実務上、いったん対象会社を100%子会社化した上で吸収合併を行うケースも考えられる。
子会社化せずに合併した場合、上述の通り、子会社の資産及び負債は時価で評価され、取得対価との差額はのれんとして計上される。一方、100%子会社化した上で合併した場合においては、100%子会社化した時点で連結財務諸表上、暖簾が計上されるが、その合併が行われると、子会社から受け売れる資産及び負債は上述の通り「連結財務諸表上の帳簿価額」tなるため、当初から合併した場合に生じる暖簾の未償却残高も計上される。
従って、100%子会社化直後に吸収合併した場合、作成される合併後の財務諸表は、当初から合併した場合と相違はない。また100%子会社化後、一定期間経過した後に吸収合併した場合、その一定期間における100%子会社に係る損益は、合併時に一括して損益に計上される(100%子会社で計上された損益と連結財務諸表上の暖簾償却額の合計額が、吸収合併時の抱き合わせ株式消却差損益として計上される)。
このように合併時に、親会社が子会社の資産及び負債を連結財務諸表上の帳簿価額で受け入れることにより、当初から合併した場合と100%子会社化後に合併した場合では経済的効果が同一になるように配慮されている。

開示
M&Aあるいはグループ再編により組織再編が行われた場合、「企業結合に関する会計基準」「事業分離等に関する会計基準」等に従い開示を行う必要がある。財務諸表の注記事項として、実施した組織再編の概要や会計処理の方法やプロ・フォーマ情報(企業結合が期首に完了したと仮定した場合の連結損益計算書に対する影響の概算額)についても開示を行う。

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