マルチプルの実績値と予想値

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株価は企業が生み出す将来のキャッシュ・フローを織り込んで作られると考えられていますので、現在の株価は企業の過去の業績ではなく、将来の業績の予想で成り立っていることが前提となります。このような観点で成り立っていますから、現在の株価と過去の財務数値を対応させるのではなく、現在の株価と将来の予想財務数値を対応させた、予想マルチプルを用いた方が、類似企業比較法においては適しているといえるでしょう。

また、業績予想としては、評価基準日に比較的近い事業年度の業績ではなく、長期的に持続する業績を用いるのがベターです。入手できる限り長期間にわたる業績予想を入手して、これに基づいて可能な限り将来の時点におけるマルチプルを算出することが理論的には望ましいことになります。とは言いましても、上場企業による業績予想として公表されているのは通常、当事業年度分のみです(1期のみ)。それを超える将来予想は企業が自らIR情報として公表している限り入手はできませんし、せめて会社四季報の予想くらいです。そのため、実務上は一般に公表されている当事業年度の業績予想を用いてマルチプルを算出するのが一般的です。実績が赤字でも予想が黒字なら儲けもの。予想ですらも赤字であれば、類似業種から外さなくてはなりません。

当事業年度の業績予想を用いてマルチプルを算定する場合、いわゆる短期的な業績予想となりますから、インカム・アプローチに基づく評価と比べて低い結果になりがちです。それは企業の中長期の成長性は短期的な業績予想には反映されていない、あるいは、評価対象企業の直近の業績が悪化している場合は企業の業績回復後の収益性が短期的な業績に反映されていないことが考えられます。

前者の場合、評価対象企業の成長性が類似企業に比べて高い場合、評価対象企業の潜在的なマルチプルは類似企業のマルチプルよりも相対的になるはずなのですが、評価対象企業の業績予想が類似企業の低いマルチプルに対応付けられてしまうので、結果として株主価値が過少に評価されることになります。

後者の場合、直前事業年度の業績が悪化した場合、当期の業績予想はその影響を受けて保守的になるのが通常ですが、短期的な業績悪化の株価への影響は限定的であり、市場株価は長期的に自足できる業績を織り込んで作られます。そのために、潜在的な収益力は高いにもかかわらず、短期的な低い業績予想が長期的な業績を反映したマルチプルに対応付けられ、株主価値が過少に評価されることになります。

上場企業の情報を用いる場合には、上記考え方でよいのですが、これら数値を用いて、ベンチャー企業の株価を算定するときには注意が必要です。ベンチャー企業の場合には、将来予想と言っても鉛筆なめなめがほとんどで、その利益予想は当たるも八卦当たらぬも八卦の世界です。ですので、過去の業績をベースにしたうえで、売上や利益が極端に高くなる場合には、その合理的な説明も必要になるでしょう。

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