WACC(加重平均資本コスト)を求めるにあたっては資本構成比率を見積もる必要があります。WACCは次の式で表せます。
WACC:加重平均資本コスト
ROD:負債資本コスト
t:実効税率
ROE:株主資本コスト
D:有利子負債額(時価)
E:株主資本(時価)
上記のDとEを見てください。カッコ書きの中は「時価」となっていますね。これが厄介なのです。有利子負債の時価も本来厄介なのですが、実務上は有利子負債の帳簿価額と時価が一致するとみなすのが一般的です。なので簿価でいいのですが、上場企業を想像してもらうとわかる通り、財務諸表上の純資産の部と株価×発行済株式数で求められた金額が一致することは稀です。というか見たことがありません。時価と簿価は違います。
もう少し具体的に見ていきましょうか。有利子負債が5,000万円で、株主資本の簿価が5,000万円とします。そうすると自己資本比率は50%になります。これはあくまで簿価でして、株主資本の時価が簿価の倍の1億円になるとしましょうか、そうすると自己資本比率は66.7%(四捨五入)になります。WACCで用いなければならない上記の時価は、この時価を用いなければなりません。
多分これでも何が大変なのかまだわからないと思います。評価対象企業の時価をどのように求めるかと言いますと、概ね上場企業ではないわけですから、株価も算定しなければなりません。算定はどうしますか?DCF法の場合は、将来キャッシュ・フローの割引現在価値を用いますね。その割引率はWACCを使います。とすると、DCF法で求められた株主価値を用いなければならないのですが、その前提としては、WACCにそこで求められる時価を当てはめなければならないという、循環計算になってしまうのです。
つまりWACCを求めるためには、WACCで求めた後の株主価値が判明しなければ求められません。算定される株主価値と、その前提となる株主資本比率は、計算上に相互に影響しあう関係にあり、両者の関係が整合するまで繰り返し計算を行わなければならないのです。