類似企業比較法とは、評価対象企業と類似する上場企業の株価の財務数値に対する倍率を算出し、評価対象企業の対応する財務数値に当該倍率を乗じることで株主価値を分析する手法です。ここで倍率をマルチプルといいますが、これは事業価値と財務価値を対応させたもの、株主価値と財務数値を対応させたものの二つに大別させることができます。表にまとめると次の通りです。
財務数値 | マルチプルの算定 | 株式価値の算定 | マルチプル例 |
予想 or 実績 | 株式価値÷財務数値 | マルチプル×財務数値 | PER、PBR、PSR |
同上 | 事業価値÷財務数値 | マルチプル×財務数値―純有利子負債 | EV/EBIT、EV/EBITDA |
上段を株式価値マルチプル、下段を事業価値マルチプルと表現します。
- 株式価値マルチプル
評価対象企業の財務数値と類似企業のマルチプルを乗じることによって株主価値が直接算定されます。
- 事業価値マルチプル
評価対象企業の財務数値と類似企業のマルチプルを乗じることによって事業価値が算定され、これに対して非事業資産を加算し、有利子負債等の株主に帰属しない価値を控除することによって株主価値が算定されます。
前者は株主価値を直接求めるという点でインカム・アプローチにおけるエクイティDCF法に類似し、後者は事業価値を求めて有利子負債等を控除することで株主価値を求めるという点で、インカム・アプローチにおけるエンタプライズDCF法に類似しています。
インカム・アプローチにおいては、事業価値と非事業資産の合計が企業価値として定位議され、そこから有利子負債等を控除することで株主価値が求められます。このように事業から得られる価値と非事業資産の価値を合計して、有利子負債等を控除することで株主価値を求めるという手法は、事業価値マルチプルを用いた類似企業比較法においても同じ結果となります。
なんとなく上記説明では抽象的でわかりづらいかもしれません。要するに、評価対象企業の1株当たり利益が類似上場企業の1株当たり利益の2倍であれば、評価対象企業の株価は類似上場企業の株価の2倍とするという考え方です。