優先株式の資本コストは通常、以下のような数式になります。
優先株式の資本コスト=優先株式1株当たりの配当÷優先株式1株当たりの市場価格
なのですが、実は優先株式で上場している例は、2007年9月3日になされた株式会社伊藤園のみです。詳細は下記東京証券取引所のウェブサイトをご覧ください。
https://www.jpx.co.jp/equities/products/preferred-stocks/issues/tvdivq0000007usm-att/25935g.pdf
参考になるものが一つしかないため、飲料メーカーであれば類似業種としてどうにか当てはめようがありますが、まったく市場価格はないといっても良いでしょう。実際に飲料メーカーでも一つしか類似業種がないとすれば、これを市場価格と言ってしまっては合理性に欠けます。
また、優先株式の積極的な引受先はベンチャーキャピタルであり、彼らは優先株式を自社の投資スキームに合わせるように設計します。そのため、IPOやM&AによるEXIT以前に優先株式を第三者に譲渡する可能性は極めて低く、EXITまでの売却事例が少なく、公正価値を見積もることは非常に困難であるといえます。
加えて、優先株式の発行条件は個別にかなり複雑になっています。そのため、それら複雑な条件を全て優先株式の公正価値の算定に織り込むことも困難なため、そもそも優先株式の資本コストを市場価格に基づいて見積もることは極めて困難と言わざるを得ません。そのため、実務上は次のように考えられています。
(a) 優先株式1株当たりの配当÷優先株式の直近取引価格として算定
直近の優先株式の取引価格がわかっていれば、配当をその価格で割る方法で算定します。直近の価格を市場価格と考える方法です。
(b) 優先株式を普通株式と普通社債の中間的な証券とみなして資本コストを算定
優先株式を普通株式と普通社債の中間的な証券と考えて、その優先株式を構成する普通株式と普通社債の割合を求めそれらに対する資本コストを求める方法があります。株式会社格付投資情報センターの「ハイブリッド証券の資本性評価と格付けの視点」というレポートによれば、ハイブリッド証券を、①返済義務なし、②配当支払いの義務なし、③劣後性の観点から、優先株式の普通株式への類似性の程度を5段階に分類しています。ハイブリッド証券の一つである優先株式を類似性の観点から普通株式と普通社債に分けられれば、優先株式を構成するそれら普通株式と普通社債の割合に対するそれぞれの資本コストをかけて、加重平均で優先株式の資本コストを計算できます。