新株予約権の希薄化

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新株予約権が行使されると、企業は時価を下回る価額で株式を交付しなければなりません。新株を交付する場合、時価発行増資をしていたら得られた調達額よりも低い額でしか調達できないために、時価と行使価格の差額が企業の機会費用となります。

加えて、自己株式を交付する場合、市場から時価で取得して行使価格で引き渡せば、ここでも時価と行使価格の差が企業にとってのロスとなります。このように新株予約権には1株当たりの株主価値を希薄化させる効果があり、これを株主価値の算定結果に反映させなければなりません。その方法としては以下の二つの方法があります。

(1) オプション評価モデルを用いる方法
新株予約権の時価を算定する方法として最も理論的なのが、オプション評価モデルを用いる方法です。これは、株主価値は企業価値から新株予約権を有利子負債等と共に控除することで算定し、1株当たりの価値は株主価値を発行済株式数で割ることで求められます。

(2) 自己株式法
オプション評価モデル以外の方法として用いられている方法ですが、これはイン・ザ・マネーの新株予約権が現時点で一斉に行使されたとみなして1株当たりの価値を算定する方法です。詳しく説明する前に、イン・ザ・マネーって何だ?ですよね。

イン・ザ・マネーは、オプションにおいて、本質的価値がゼロ(0)より大きい状態(有利な状態)のことをいいます。例えば、イン・ザ・マネーは、権利行使価格(行使価格)と原資産価格(市場価格)との関係において、オプション取引の買方が権利行使をした場合に「利益が発生する状態」のことです。すなわち、コール・オプションでは、行使価格が市場価格を下回る場合、またプット・オプションでは、行使価格が市場価格を上回る場合を指します。例えば、行使価格100円のコール・オプションを持っていたとすると、市場価格が110円の時にオプションの権利行使をすると、市場では110円で高く買うところを100円で安く買うことができるため(10円の利益が発生)、このような状況では権利行使をすると利益が得られます。

自己株式法には次の二つの方法があります。

(a) 新株予約権の行使によって払い込まれる資金を加算する方法
新株予約権の行使によって払い込まれる資金を新株予約権考慮前の株主価値に加算し、これを行使によって増加した後の株式数で割ることで1株当たりの価値を算定します。

(b) 新株予約権の行使によって払い込まれる資金で自己株式を取得するとみなす方法
新株予約権の行使によって払い込まれる資金で自己株式を時価で取得、それを交付するとみなして算定します。

自己株式法はオプションの本源的価値のみを考慮して時間価値を無視しているというところに問題があります。その結果、新株予約権の時間価値に相当する分だけ株主価値が高く評価されることになり、時間か価値が無視できるような、例えば新株予約権が大幅にイン・ザ・マネーか、アウト・オブ・ザ・マネーである場合には適正な株主価値を近似的に求められますが、時間価値の高い、いわゆるアット・ザ・マネーに近い場合には無視できない誤差を生じる可能性があります。

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