割引率は、将来のキャッシュ・フローの現在価値を求めることにあります。仮に銀行からの借入で年利3%とした場合、銀行からしますと、100万円貸せば、3万円の支払利息を加えて、1年後に103万円となります。そうしますと103万円÷(1+0.03)=100万円の1.03が割引率と表現されます。
高利貸しの場合、戻ってこないリスクもありますから、100万円貸して15万円の支払利息を加えて、1年後に115万円となりますが、そうしますと115万円÷(1+0.15)=100万円の1.15が割引率であると表現します。どちらも実は現在価値は100万円なのですが、本質的に、割引率は、将来キャッシュ・フローのリスクに応じて投資家が期待する収益率のことを言っているのです。リスクが大きければ大きいほど、より多くの収益を期待できなければ、お金を出さないということです。
この割引率は、資本コストとも言います。DCF法で企業評価を行う場合には、対象となるフリー・キャッシュ・フローのリスクを適正に反映させる必要があります。いくつかあるDCF法と割引率の関係は次の通りです。
評価手法 | フリー・キャッシュ・フロー | 適用される割引率 | フリー・キャッシュ・フローの割引現在価値 | 負債の節税効果 |
エンタプライズDCF法 | アンレバード・フリー・キャッシュ・フロー | レバード株主資本コストと負債資本コストによる加重平均資本コスト | 事業価値(Levered) | 割引率に反映 |
APV法 | アンレバード・フリー・キャッシュ・フロー | アンレバード株主資本コスト及び税引前負債コスト | 無負債事業価値(Unlevered) | 無負債事業価値に別途加算 |
エクイティDCF法 | エクイティ・キャッシュ・フロー | レバード株主資本コスト | 株式価値 (Levered) | フリー・キャッシュ・フローに反映 |
エンタプライズDCF法では、全ての投資家に分配可能なキャッシュ・フローであるアンレバード・フリー・キャッシュ・フローを加重平均資本コストで現在価値に割り引きます。加重平均資本コストは、株主資本コストと負債資本コストを時価の構成比で加重平均して算定されますが、前者は一定の有利子負債の利用を前提としたレバード株主資本コスト、負債資本コストでは調達金利から実効税率相当割合を節税効果とした控除した実質的な調達金利を用います。
APV法ではアンレバード・フリー・キャッシュ・フローをアンレバード株主資本コストで、有利子負債の節税効果を税引前の負債コストでそれぞれ現在価値に割り引きます。エンタプライズDCF法とAPV法は、アンレバード・フリー・キャッシュ・フローを現在価値に割り引くという点で共通します。前者では有利子負債の節税効果が加重平均資本コストに織り込まれ、節税効果の金額は明示的に考慮されませんが、後者ではアンレバード・フリー・キャッシュ・フローと有利子負債の節税効果が区分され、それぞれに対応する割引率が適用される違いがあります。
エクイティDCF法では、エクイティ・キャッシュ・フローが株主資本コストで現在価値に割り引かれます。この株主資本コストは、一定の有利子負債の利用を前提としたレバード株主資本コストとなります。