エンジェルの方に投資をお願いするべきケースというときは、創業間際だと思われますが、創業間際では起業家にそれほどお金がないことがほとんどだと思います。そこで第一の悲劇が起こります。
自分は50万円しかないけれど、エンジェルは自分のアイデアに950万円出してくれた、ああ、なんて天使なんだ。それはものすごく勘違いです。創業時にお金を出してもらった場合、起業家と投資家の出資する株価は同じでないといけません。そうなるとあなたの持ち分は5%、外部投資家の持ち分は95%。同じ種類の株式で同時に出資したら当然、お金を持っている人の比率の方が高くなってしまいます。
この先事業で数千万の資金調達が必要になると思われますので、起業家の持ち分は限りなくゼロになってしまいます。上場のルールで創業者の持株比率が低いことは禁止事項にはなっていないものの、起業家の持ち分が少なくて上場するインセンティブが低そうな会社はEXITする可能性が小さいとみなされて投資が受けられない可能性があります。このケースでは設立時に既に資本政策が失敗していたということになります。そしてこの状況を何とかするために、起業家がエンジェルから株を買い戻さなければならないというドタバタ劇が繰り広げられます。
利益が出ていた場合は当然のこと、ベンチャーキャピタルが投資してくれるようなステージの場合、株価が相当上がっていることが想定されますので、さすがに買取価格が簿価は認められません。当人同士でOKということも稀でしょうから、相当色を付けて買い戻さなくてはなりません。仮に当人同士でOKだったとしても、本来は時価で取引されるべきものですから、税務リスクが生じます。税務リスクとはどういうことかと言いますと、上記例で考えますと、エンジェルの持ち分950万が時価計算では10倍の9,500万になっていて、時価取引をすればエンジェルがキャピタルゲインに対して課税されます。しかし時価を無視して簿価で取引してしまうと、税務署的には、あなたは9,500万円で売却しなければならないところを950万円ですんだわけだから、その分儲けやがったな税金払え、となるわけです。以下まとめますと次のようになります。
- 売り手側(個人)・・・エンジェル
今回のケースは簿価ですので税金はゼロです。
- 買い手側(個人)・・・起業家
贈与税がかかります。その時の計算は(時価―実際の売買価額-控除額)×贈与税率になります。基礎控除後の課税価格が3,000万円超ですので、税率は55%、控除額400万円ですので、単純計算すれば4,482.5万円があなたに課税されます。950万円のやり取りなのにですよ。こういったケースは税務上低廉譲渡と呼んでいます。
そもそもエンジェルが物分かりの良い方であれば、株式公開が難しいということを説明すれば納得してくれて株式の譲渡に応じてくれる場合もあるでしょうが、物分かりの良い方でなければ、株を売ってくれないかもしれません。困ったときに助けてやったのに、なんだ今更、儲かると思ったらオレを弾き飛ばすのかよ、この野郎!ですよ。