ベンチャー企業でも海外の企業を買収する、あるいは日本人でも海外で起業するといった例は決して珍しくはありません。自分も海外で起業した方が海外で会社を売却する場合の株価評価を何度も行っています。日本でも海外でも、使う数字は異なれど、評価法自体は万国共通のようです。ここでは、海外企業の株式評価についてみていきましょう。
まずは外貨建てのフリー・キャッシュ・フローを現在価値にどのように割り引いたら良いか、ということですが、邦貨建てのキャッシュ・フローには邦貨建て、外貨建てのキャッシュ・フローには外貨建ての資本コストを適用すべき、ということです。これには二つの方法があります。
- フォワードレート法
邦貨建てのキャッシュ・フローを邦貨建ての資本コストで割り引く方法です。ここでフォワードレートは、金利平価説に基づいて予測しますが、金利平価説とは現時点での将来の理論為替相場(フォワードレート)は、現時点の為替相場(スポット・レート)と二国間の金利差によって決定づけられる仮説を言います。フォワードレートの理論値を求めるのが、金利平価式という以下の式です。
FXt:t期のフォワードレート
FX0:スポット・レート
Rfd:邦貨建てのリスクフリー・レート
Rff:外貨建てのリスクフリー・レート
- スポット・レート法
外貨建てのキャッシュ・フローを外貨建ての資本コストで割り引く方法です。
通常、金利平価説が成立する状況においては、フォワードレート法とスポット・レート法は整合的な結果を導きます。つまり外貨建てのキャッシュ・フローをフォワードレートで邦貨建てに換算してから邦貨建ての資本コストで現在価値に割り引いても、外貨建てのキャッシュ・フローを外貨建ての資本コストで現在価値に割り引いてからスポット・レートで邦貨建てに換算しても、最終的に得られる邦貨建ての価値は一致します。
これら両手法が整合的な結果を導くのであれば、片方だけでよいことになります。しかしフリー・キャッシュ・フローを割り引くためのWACCは、リスクフリー・レートだけでなく、β、市場リスクプレミアム、資本比率、予想調達金利、税率等様々な変数の影響を受けます。そのため、外貨建てのキャッシュ・フローをフォワードレートで換算してから邦貨建ての資本コストを適用した場合、海外におけるキャッシュ・フローのリスクと適切に対応しない場合があるのです。このようなときには、外貨建てのキャッシュ・フローを外貨建ての資本コストで現在価値に換算するスポット・レート法が合理性を有していることもあるのです。