リスクフリー・レートは日本でわれば国債利回り10年物を採用でOKとなります。読んで字のごとく、リスクがないということですから、安全性の高い長期の債券、いわゆる国債の利回りを用いるのが一般的です。しかし新興国においては、国債の格付けが投資適格未満であったり、流動性が低かったりする場合があります。つまりリスクフリー・レートの要件を充たしていないことがあるのです。このようなときは代替的手法で推計する必要があります。
(a) クレジットスプレッドを調整する方法
以下の式のように、対象国における基軸通貨建て長期国債利回りと基軸通貨国における長期国債利回りの差からクレジットスプレッドを求めて、これを現地通貨建ての国債利回りから控除することでリスクフリー・レートを推計します。
Rff:現地通貨建てのリスクフリー・レート
If:対象国における現地通貨建ての国債利回り
Ih:対象国のおける基軸通貨建ての国債利回り
Rfh:基軸通貨建てのリスクフリー・レート
上記式の右辺のカッコ内は、対象国と基軸通貨国がそれぞれ基軸通貨建てで国債を発行した場合の利回りの差であり、クレジットスプレッドに相当します。また、上記式を整理すると次のようになります。
つまり、現地通貨建てのリスクフリー・レートは、基軸通貨建てのリスクフリー・レートに対し、対象国における現地通貨建て国債と基軸通貨建て国債の利回りの差を加算したものと考えることができます。理論的には整合性がありますが、問題点として以下2点が考えられます。
(1) 現地通貨建ての利回りと基軸通貨建ての利回りが混同されていること。
理論的にはクレジットスプレッドも現地通貨建てで推計すべきと考えられますが、そのためには基軸通貨国があらゆる通貨建ての国債を発行していなければなりませんが、そのようなことは当然あり得ません。その結果、クレジットスプレッドは基軸通貨建てで求めるしかないということになります。
(2) 対象国における基軸通貨建ての国債利回りの入手が困難であること。
全ての国で基軸通貨建ての国債を発行しているとは限りません。
(b) 物価上昇率の差を調整する方法
基軸通貨国における国債利回りに対して、基軸通貨国と対象国における物価上昇率の差を加減する方法です。
πf:対象国における物価上昇率
πh:基軸通貨国における物価上昇率
各国の物価上昇率に関する予測は国際通貨基金や世界銀行などの公的機関により公表されているため、入手が容易です。この方法は実質金利が全てにおいて等しいという前提を置いているというところに注意が必要です。