市場リスクプレミアムとは、株式市場全体の利回りとリスクフリー・レートとの差として定義されています。投資家は株式市場のリスクにより高い利回りを求めることになります。リスクフリー・レートとは国債利回りで代用しますが、国債に出したお金は概ね返ってきますが、会社の株式に出したお金は返ってくるとは限りません。
そのため、お金を出したのであれば、国債以上に儲かると期待させてくれなければお金を出さないのです。つまりリスクプレミアムとは、リスクの大きさに対して投資家が求めるリターンであるといえます。リスクプレミアムの大きな金融商品とは、市場がそのリスクが大きいと判断しており、大きな期待収益率がなければ取引が成立しません。
この市場リスクプレミアムの算出方法には大きく分けて二つあります。それはヒストリカル・リスクプレミアムとインプライド・リスクプレミアムです。
(a) ヒストリカル・リスクプレミアム
過去の株式市場の平均リターンからリスクフリー・レートを控除することで算出されるリスクプレミアム。
(b) インプライド・リスクプレミアム
個別企業の市場株価と予想利益の関係にも登記、算出された当該企業の期待利回りからリスクフリー・レートを控除することによって算出されるリスクプレミアム。
前者は過去の実績から推計する方法、後者は投資家が市場で要求する収益率を推計する方法です。
ここでヒストリカル・リスクプレミアムとインプライド・リスクプレミアムの具体的な算定手法を見る前に、割引率に織り込まれないリスクがあるかどうかを考えておきましょう。どちらかといいますと、本稿は上場企業ではなく、ベンチャー企業の企業価値評価を対象としており、この場合、上場企業の資本コストの算定手法では適さない場合があります。
ベンチャー企業等の未上場企業を評価する場合、実務上は事業内容が類似する上場企業を代替的に用いて算定するため、割引率に織り込まれるリスクは、類似上場企業と同等になります。しかしベンチャー企業には事業計画の達成可能性に不確実性が伴い、事業計画の未達成のリスク、倒産リスクなど類似上場企業にない評価対象企業固有のリスクが反映されないことになります。
実務上は、このようなリスクを織り込むために、一般的にモデルで割引率を推計し、そこに様々なリスクプレミアムを加算していますが、合理的な根拠はなく、その割引率は極めて主観的なものとなっています。この場合、多くのベンチャーキャピタリストからの経験から導かれた非常に大きな割引率を用いている例があります。評価対象企業のステージごとに異なりますが、30~70%という大きな割引率になります。