市場株価法とは、市場株価の分析によって株主価値を評価する方法であり、マーケット・アプローチの一つです。証券取引所では多数のプレーヤーが参加して活発に取引を行い、ここで形成された株価は、当事者の合理的な意思や、様々な株価の形成要因が織り込まれていると考えられ、市場の株価は最も高い客観性を有しています。つまり株式市場が効率的と仮定したうえで、評価基準日時点の株価は、全ての情報を織り込み、市場株価は公正価値と一致すると考えるのです。
効率的市場仮説とは、市場は常に完全に情報的に効率的であるという仮説です。これは金融市場における金融商品の価格がその商品の価値を決定づける情報を反映しているという意味です。効率的市場仮説に従えば、株式取引は株式を常に公正な価格で取り引きしていて、投資家が株式を安く買うことも高く売ることもできないということになります。
市場を効率的とみなすための主な仮説には以下のようなものがあります。
- 常に多数の投資家が収益の安全性を分析・評価している。
- 新しいニュースは常に他のニュースと独立してランダムに市場に届く。
- 株価は新しいニュースによって即座に調整される。
- 株価は常に全ての情報を反映している。
あくまでもこれらは仮説ですが、上場企業の評価においては市場株価を無視することは適当ではありません。ベンチャー企業は未上場ではあれど、その株価評価のいずれかにおいて、類似業種の上場企業の株価が関連してくることがあります。そのため、このような考え方についても把握しておく必要があるでしょう。
市場株価としては、評価基準日の証券取引所における終値を参照する場合の他、評価基準日以前一定期間の平均株価を参照する場合があります。株価が企業価値であれば、毎日株価が頻繁に動くのも変ですし、そもそも株価は需給関係も大いに左右されます。従いまして、株式市場の効率性には限界があり、一時点における株価は異常な要因で変動する可能性もあるので、実務上は評価基準日当日の株価ではなく、一定期間の平均株価を合わせて参照するのが一般的です。
ここで平均株価としては、各取引日の終値の単純平均値と、各営業日に約定した価格を出来高で加重平均することで求める出来高加重平均価格(VWAP:Volume Weighted Average Price)が一般に用いられます。終値の単純平均は、ネット等で容易に入手できますが、前日の終値から当日終値に至るまでの値動きや出来高の影響を無視しているため、短期間の平均株価を取る場合には、VWAPに比べて取引実態が反映されにくくなる可能性があります。一方、VWAPは終値平均に比べて取引実態を反映させやすいものの、情報の入手にはコストがかかります。そのため、実務上は平均株価として終値平均を用いても特段の問題はないでしょう。