各企業評価手法において適切な場面とは

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企業のライフステージごとに、用いるのが適切な企業評価の手法は異なります。ここでは主にベンチャー企業を対象としているので、成長基調を対象にすればよいのですが、それ以外のステージ、つまり安定業況、衰退基調も見ることで、考え方に深みが増すと思われますので全体を概観します。

(1) 成長基調
ベンチャーはこれに当たります。成長企業の企業価値評価は、将来の収益獲得能力をメインに考えることが必要であるため、将来の収益獲得能力や固有の性質を評価結果に反映させる点で優れているインカム・アプローチの適用が最も望ましいことになります。
アセット・アプローチでも営業権を適切に評価していればよいのですが、その場合、営業権はインカム・アプローチで算定せざるを得なくなりますから、最初からインカム・アプローチを用いていれば十分になります。

(2) 衰退基調
ベンチャーでこういう場面はあまり考えづらいので通常はありえないケースだと思います(こけたときは別)。収益性の低い企業では、場合によってはアセット・アプローチによる株式評価が課題となってしまう可能性があります。概ね清算価値を算定する場合ですが、清算するまでの負のキャッシュ・フローを見積もらなければなりません。そのため、この場合でもインカム・アプローチによる評価が妥当と言えます。しかし、収益が立たず、インカム・アプローチの採用が困難である場合には、アセット・アプローチを用いざるを得ないでしょう。その場合に減損会計に基づく資産評価をしていないと高めになってしまうということです。

(3) 企業の継続性に疑義があるようなケース
ベンチャーの場合、通常はあり得ないケースです。継続性に疑義があれば、ベンチャーはさっさと潰れているでしょう。あるいは虫の息状態で売却できる状況にはないともいえます。しかし技術力が優れている場合、良い特許を持っている場合など、上場企業の目に留まれば、このような手法で引き取ってくれる可能性はあります。
インカム・アプローチやマーケット・アプローチは通常、会社の継続性を前提とした価値評価であり、評価対象が継続性に疑義があるときには慎重に行わなければなりません。この場合でもプラスのキャッシュ・フローが永続的に継続するという仮定で評価はできないと思いますので、マイナスのキャッシュ・フローを想定したうえで、従来からの資産を食いつぶすようなイメージで企業価値評価がなされることになるでしょう。

次にライフステージ以外での評価方法に関する留意点を記載しておきます。どちらもベンチャー企業あるあるです。

(a) 知的財産等に基づく超過収益力を持つ企業
アセット・アプローチでは貸借対照表における純資産を基礎として評価するため、オンバランスされていない無形資産や知的財産等が価値の大半を占める場合には、アセット・アプローチでは適切に評価されない場合が多いので、超過収益力を価値評価に反映させやすいインカム・アプローチを評価手法に用いるのが基本と思われます。

(b) 類似上場企業のない新規ビジネス
類似上場企業がない場合、マーケット・アプローチによる価値評価には限界があります。類似した商品や製品を取り扱っていても、事業コンセプトやビジネスモデルが全く異なる場合には、マーケット・アプローチによって誤った評価になる可能性があるので、インカム・アプローチを採用することが望ましいといえます。但し、インカム・アプローチを算定する場合でも、その計算要素の一つとして、類似上場企業の数字を用いなければならない場合があります。その点については別途記載します。

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